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自殺とビジネス特許 [2005年09月27日(Tue)]

自殺とビジネス特許 [2005年09月27日(Tue)]

ここ数年、自殺者数が3万人をずっと超えているのだが。自殺者数の推移の警察庁の資料(PDFファイル)を見ると、1998年(平成10年)に、前年の24391人から、32863人という風に、約35%増という具合に、急激に増えている。それから、ずっと、自殺者は、3万人以上で現在まで横ばい状態となっているのである。

当時、私は、インターネット関連の仕事でフリーになって、いろいろ面白い事をやっていたのだが、前途洋々だったインターネットの仕事が急に閉塞感に見舞われるように変化したのが、1998年だった。
この1998年に起こった出来事と言えば、ビジネス特許ブームの到来である。
米国で、1998 7月、連邦巡回裁判所(CAFC)、ステート・ストリート事件判決において、従来の「ビジネス方法除外原則」を覆し、ビジネス方法の特許性を認めたという判決があり、そのころからビジネス特許ブームが巻き起こった。
インターネット業界は、インターネットという世界に繋がれた自由でオルタナティブでもいられたり、デジタルピッピーがいたりと多様性の共存のベクトルがあったのだが。この判決の前後から、インターネットの世界は独占のベクトルに大きく変わった。
いかに速いスピードと、大きな声で、一番のアクセスを確保し、ビジネス特許など知的所有権を振りかざすことで、新しい者の参入を阻止するという傾向である。
その傾向おかげで、多くの創作活動が行き詰まってしまったと体感している。
たとえば、IT関連のビジネスのアイデアだが、音楽配信ビジネス、アフィリエイト、ネットオークション、電子商取引、映像配信、インターネットマーケティングリサーチ、電子メールマーケティング、懸賞、コミュニティサイト、JAVAを使ったゲーム、ネット対戦ゲーム、光ファイバー、無線LAN、xDSL、IP電話などなど、ほとんどのWebビジネス又はITビジネスのアイデアは、1998年までに出尽くし。それ以降、携帯電話のように端末を変えたり、通信技術の発展によって、1994年からのワクワクするようなインターネット黎明期に出てきたアイデアを、実現してきているだけなのだ。
もちろん、その技術開発においては、多くの技術の積み重ねがあってアイデアを実現してきたものなので、高く評価できるものだが。新たなアイデアを生み出して行っているわけではない。既に、出てきたアイデアを、利権にするために、強大な力をつかって、確固たるものにしたという感じだ。
また、1998年以降、いろんな企画を見てみると、いままでにあったものを、いかに違うものに見せるかに終始している事が多い。そして、似たようなものを、違うものに見せるために、以前を否定する事から始める傾向があり。そのため、以前に行われた事を、否定したところからスタートするため、以前チャレンジされたことのノウハウの蓄積が意外に少ない。
また、スピード勝負なので、精度が低くなり、とにかく解りやすいだけのものが好まれるようになった。
この傾向は、ITだけでなく、同時に、SOHOなど、新しく起業しようとする人たちも、自立ではなく、大きなパワーや組織の下で働くタイプにシフトしたり。なにか、わかりやすいキーワードに踊らされ、てっとり早く出来合いのものを組み立てるために、同業者が山のように出てくるという傾向が広まった。
人という生き物は、弱い生き物なので、認められないと生きてゆけない人が多いのだが。 自らのオリジナリティを形にしにくくなるという事は、大きなストレスとなる。
その上、ビジネス特許は、出願した時期の勝負になるし、似たような特許がないかと調べるのにお金がかかる。つまり、スピードとお金の勝負である。オリジナリティがいくらあっても、別の人が、似たようなもの(似たようなものであって、本当はそれぞれのオリジナリティのある別物)があれば、金銭や、余分に、重箱の隅をつつくような労力をかけないと、自分の考えた、オリジナリティのある新しいことが出来なくなる。それは、人の生き甲斐を損ないかねないのだ。
知的所有権は、私も必要だと思うのだが、あまりに過剰だと、硬直性が、創造性をスポイルしていまうことがある。そのため、知的財産が、創造性開発に対しマイナスに働くことになった場合、本来の目的と、現状が一致しないことが発生する。それが、どうも発生しているようなのだ。
そして、ビジネス特許取得に必要なスピードを出すためのエネルギーは、時には、人の限界を超える。人の限界を超えたとき、それは、人の死となる。そのかたちは、事故死、過労死、自殺など、様々な形で現れる。
ビジネス特許に関する裁判と同時期である、1998年(平成10年)7月は、故小渕恵三元総理大臣が就任した時期である。その小渕恵三元総理大臣が、就任してから2年足らずで、過労と思われる形で現職のまま亡くなったのは、人の限界を超えたスピードの影響もあったのかもしれない。
あくまでも、仮説ではあるが、ビジネス特許ブームによる、ビジネスの加速が、自殺者の増加に繋がった一因になっているように感じてならない。
どのようにして、硬直性を減らし、シェア分配し共生してゆくことが、今の世の中の課題なのではないかと思う。

[CANPAN blog STILL ALIVE より]

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