本当に就農支援になるのか? [2008年07月12日(Sat)]

新聞に、受刑者に対する就農支援の話が載っていました。
アイデアとしては面白いと思いましたが、いろいろと問題がありそうです。

まず、そもそも論ですが・・・
今の農家の多くが就農させたいと思っていないということです。
基本的に、減反したら補助金がもらえるなど、農地を自分たちで持っていて自分たちでやっていることにメリットがあるわけで、他人には作業をやらしたくない。このあたり、小作農を禁止した農業制度が、農地や農民の流動性を阻害している。
平たく言うと、農業をしようと思っても、農家には簡単になれないわけです。
逆に農家は止めることができる。
これが、農業の就労者が減少している原因なわけて、農業の就労者が減少しているから元受刑者に就農させて減少を抑えるというのは、根本の問題の解決にならない。

また就農させているケースでも、研修生制度やボランティアを利用して、外国人やエコに目ざめた純情な人をタダ同然でこき使いたいということがけっこう見られている。
こういうのがまかり通っているところで、受刑者が出所後、就農するための技術を得て働こうとしたら。そういう人は、タダ同然で雇う事を考えてる農業経営者からすると、安く働かすための人材としかみられない可能性がある。
それでは、せっかく「土を耕し、汗をかくことで、働く喜びを知り、更生の意欲を高められる」というのが、現実に打ちひしがれてしまい。逆効果になりかねない。
逆効果になって再犯をおかした例がひとつでも大きく報じられてしまうと、今までの努力が台無しになってしまう。

次に、どういう就農支援かという事も問題。
「土を耕し、汗をかくことで、働く喜びを知り、更生の意欲を高められる」と鳩山法相が言ったことがこのアイデアとなったようですが。
「働く喜び」というのは、結果を出さないと得られないものです。
自分たちで完全に自給自足するなら、単に作物を作る事で結果を得られるわけですが。実際は、農機具に燃料が必要であったり、種、肥料、農薬、農機具が必要なわけで、それを得るためには、お金が必要なわけです。
農業は、投資をして、成功したら儲かるという、リスクを持った商売です。
だからこそ「働いた」とか「実った」という事での喜びはあるとしても、結果としてマイナスなら、蓄えがない場合は、借金が増え、不安な生活を送ったり、場合によってはのたれ死にしてしまう。
「定職に就かせることが、更生のために重要」と就労支援施設の構想が出てきたわけですが、そもそも不安定な業種である農業に元受刑者を就かせるのは、リスクが大きいような気がします。
だからこそ、就農支援は、農業経営について学ぶ場でないといけないわけですが。
「定職に就かせる」と書かれているとおり、元受刑者を経営者というより、労働者とすると捉えているフシもあり。まだどのように支援するのか見えてませんが、技能だけ教えて、農業経営について教育や支援をしない可能性が高いと思われます。

最後の疑問は・・・・
これって、刑務所の延長では?と思える部分があることです。
その理由は、24時間監視と農地と施設の送迎マイクロバスです。
24時間監視下に置いた上で、他の市民たちと隔離しているわけで、社会復帰のための技能習得をし、保護観察官を常駐させて生活指導などを行うということは、自由度が大きいとか名前のかわりに番号で呼ばれないなど人格的な扱いがあるにしても、やっていることは刑務所と同じなんですよね。
仮釈放をした元受刑者を中心に・・・と書かれていますが、仮釈放でもなんでもないかもしれません。

また、24時間監視と農地と施設とのマイクロバスの送迎は、地域との接触の場を減らし、逆に元受刑者に対する差別を増長しかねません。
隔離されているからこそ、勝手なイメージを持たれる。
地域の理解を得ることが、センターの設置の条件となっていて、その条件のクリアのために、監視と隔離を行うことにしたのだと思われるが。
隔離されることによって偏見をもたれた所で、外部の人と接すると、接した時のショックが大きいように思われます。
地域の人に対し元受刑者が受け入れられる仕組み作りをしないかぎり、元受刑者も地域の人も誰もハッピーにならない。(ハッピーになるのは、一時的にセンターの工事に関連した人ぐらいかも)

変な例えですが・・・
暴力団事務所って、すっごい監視システムがついていますが。監視システムがついているからこそ、暴力団は怖いと思ってしまうし。暴力団自身も、地域の人が変な目で見ているという意識をどこかで持ってしまっている可能性も高い。
だけど、以前見かけた大阪の天王寺の暴力団事務所は軒先に小鳥を飼っていて、そこで、地域の人とのコミュニケーションが生まれていて、その構成員が地域の一員になっている感じがしたんですよね。

監視すること隔離することにより出来る、心の壁こそが様々な不幸の大きな原因の1つで、それを解決するには、対話の出来る場作りなんだと思います。

このようにいろいろ並べてみましたが・・・・
日本の農業そのものの問題点もありますが。
このようなことって、今回は元受刑者という話ですが、マイノリティのために何かしようとするとき、同じような状況がある。

以下の記事を読むとき、元受刑者を、少数民族、障害者、難民、ハンセン氏病患者、ホームレス、ネットカフェ難民、シングルマザー、偽装請負労働者、アルコール依存症患者、パンクス、ヒッピー、自己破産者などさまざまなマイノリティの人たちの属性に入れ替えて読んでみて下さい。
その多くは、元受刑者特有の「刑務所を釈放された」「仮釈放されても行き場がない」「再犯に及んだ率」「凶悪事件」という「元受刑者」を修飾する部分や特有の事柄以外、その多くは違和感なく読めてしまいます。

残念ながら、それが今の日本の自立支援や更正施設の状況でしょう。

元受刑者を就農支援 訓練用施設を設置へ 法務省など
2008年7月11日15時3分 朝日新聞

法務、厚生労働、農林水産の3省は刑務所を釈放された元受刑者を宿泊させて農作業をさせながら、就農を目指す「茨城就業支援センター」を茨城県ひたちなか市に設ける方針を固めた。来年度中に稼働させる予定。就労による元受刑者の自立を国が支援する初の試みだ。

少年院を仮退院した少年に畜産や農業を学ばせる施設が北海道沼田町に開所したばかりだが、こうした施設の「成人版」は例がない。

センターの対象者は、更生と就農の意欲があるのに、仮釈放されても行き場がない元受刑者が中心。12人程度を半年から1年間、24時間の監視態勢のもとで宿泊させる。入所者は近くの農地に専用のマイクロバスなどで毎日通い、農作業の訓練を受ける。退所時には、農業関連の職に就けるよう目指す。

法務省がセンターに保護観察官を常駐させて生活指導などを行い、農業指導研修は農水省が、就職支援は主に厚労省が担う。

行き場のない元受刑者はこれまで、主に民間の更生保護施設が引き受けていた。元受刑者が保護観察中に再犯に及んだ率は、職に就いている場合は約7%なのに対し、無職の場合は約40%と5倍以上。元受刑者による凶悪事件が相次いだことなどから社会での更生のあり方が懸案となってきた。

こうしたなか、「定職に就かせることが、更生のために重要」として、国が主体となって運営する就労支援施設の構想が持ち上がった。今回、農業が選ばれた背景には、農業の就労者が減少しているうえ、鳩山法相が「土を耕し、汗をかくことで、働く喜びを知り、更生の意欲を高められる」と判断したという。

法務省は今後、全国の各地域にこうした施設をつくり、就業を支援していく方針。

一方で、元受刑者関連の施設をめぐっては、地元住民の不安も根強い。福岡市や京都市では住民の反対により、計画が事実上頓挫しており、地元の理解が不可欠だ。今回の施設は、すでに県や市と合意している。(市川美亜子)

[CANPAN blog STILL ALIVE より]