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HIVの子どもと「生きる力」 [2008年08月18日(Mon)]

HIVの子どもと「生きる力」 [2008年08月18日(Mon)]

朝日新聞社の「AERA 2008年8月25日号」を立ち読みしていたら、面白い写真が載っていたので買っちゃいました。

この写真は、タイ北部のHIV母子感染孤児施設「バーンロムサイ」で、4年にわたって子供に自分の写真を持たせて撮影した写真です。
写真を撮ったフォトグラファー会田法行さんは、2004年に初めてこの施設を訪れた時、子供たちの「生きる力」に圧倒されたそうです。
このあたり、私が津波のあとを追っていて感じていることと似ている。日本人は、離れたところで大変な事があると「もうだめだ」と思ってしまいがちなのですが。現地に行くと、恐ろしい現実とともに、そので生き続ける人の力強さであったり、日本人からすれば拍子抜けと思えるぐらい普通だったり、あわよくば能天気で明るく楽しい表情を見てギャップを感じることがよくある。
そういう「生きる力」への驚きから、撮り始めた作品なのだそうですが。
面白いのは、当たり前と言えば当たり前かもしれないけど、子供たちが成長し「生きる力」を増していくところだ。
いまから10年前は、母子感染でHIVとなると5歳あたりが平均寿命と言われていたが、2002年に体内のHIVウィルスを減少させる抗HIV剤という薬が服用されるようになってから、子供たちの体調が安定しだしたそうだ。
それだけに、HIVやエイズの防止や拡散防止を訴えるだけでなく、生き残っている人に対し、経済的、精神的、差別などの社会的なものに対する持続した支援を目的とした前回紹介したトラグーンのYellow Lilian Projectの意義をが大きくなってきている。

また、子供たちの過去の写真をさかのぼって見ていると、フォトグラファーの変化を感じる。
写真というのは面白いもので、被写体が印画紙に焼き付けられるだけでなく、写真を撮っている人を映し出す。
これだけの写真で判断するのは危険だが、女の子にはこのように映ってほしい、男の子にはこのように映ってほしいという、フォトグラファーという作り手の想いというか、想定される読者からのフォトグラファーにかけられるHIVの子供たちの捉え方への期待というものかそのようなものが、写真を撮り重ねるうちに力が抜けるというか、何かが取れていっているように見えます。そして、作らない本当の姿が、本当の「生きる力」があらわになっていき。写真に写された被写体の個性がだんだん強くなってきている。
子供たちは年輪を重ねていくが、フォトグラファーは何かが取れていく、この対比というかクロスした状況が、この写真の最大の魅力のように見えます。

さてさて、「想定される読者からのフォトグラファーにかけられるHIVの子供たちの捉え方への期待」についてですが・・・
先日公開された映画「闇の子供たち」は、頑張って作った話題作といえるが、原作自体が抗HIV剤が普及しだす前に書かれ、しかもバンコクのスラム街近くで起きた化学工場の大規模火災や流血事件から6-7年経ったという設定から、いまから10年ほど前の1998年を想定して書かれていて、今のタイの現状を表しているものではないと言える。
だから、「闇の子供たち」では、エイズが発症すると、死へと急速に進んでいく印象が強い。一方で、現実はサバイバーとしてとして生き続けている人が増えた。
せっかく「闇の子供たち」を見て、問題に関心を持った人が増えるのはいいが、10年前までのタイのイメージが広がる危険性を感じている。別の見方をすれば、10年前までのイメージがあるからこそ、観客を映画館に運び、見る者の期待を裏切らなかったとも言え、過去を追認させる危険性を秘めている。
だからこそ、すでに現実は次のステージに入っているという事を認識を広める必要を感じています。
そして、サバイバーの成長とともに、サバイバーを支える人の力が抜けて行った時、本当の理解が始まってくるかと思います。

映画「闇の子供たち」が話題に上っている今こそ、この記事と写真から、タイのHIVとエイズの問題は既に次のステップに移行していることに気が付いてほしいと思います。

会田法行
http://www.aida-photo.com/

朝日新聞社 AERA
http://www.aera-net.jp/

[CANPAN blog STILL ALIVE より]

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