タイと日本との津波からの復興の違い(4)  住民に寄り添った支援(前編)

この夏のスタディツアーのPRのため最近ラジオへの出演が多いのですが。そこで興味深く聞かれるのは、タイと日本との復興の違いについてです。そこで、何回か連載でその復興の違いについて触れてみようと思います。今回は「住民に寄り添った支援(前編)」です。

タイの津波被災地に通っていて感じるのは、住民に寄り添うプロジェクトが多いということです。もちろん、タイでも住民に寄り添わない事とかもたくさん起きてもいるわけですが。日本よりいろんなセクターの人が取り組んでいると思えることが多いと感じています。
今回は、住民に寄り添う支援について「被災者によりそうこと」「心のケア」と「コミュニティ開発」について書きたいと思います。

タイの宗教と伝統文化に根ざした草の根支援

2011年に私とタイ南部に調査に行った国際政治学者のイザンベールまみさんは「2004年当時にはメンタルヘルスの国際的ガイドラインはできていなかったが、タイ保健省が提供したメンタルヘルス・ケアは、当然、西洋医学によるものであった。他方で、タイ仏教の僧侶やNGOは伝統文化や信念に基づき、多様な形態で心のケアや心理的な支援を実践した。」(『災害・紛争等緊急時メンタルヘルス分野における有効な国際的人道支援の進展:スマトラ島沖大地震・インド洋津波によるタイの被災とケアの事例』九州国際大学法学論集,18 イザンベールまみ)と指摘しています。
論文の詳細はネット上でも閲覧できるこの論文を読んでもらうのが良いかと思いますが。私が見聞きしたことを中心に書いていこうと思います。

住民に寄り添う支援の話のボリュームが大きくなってしまったので分割しました。
今回は、その前編です。草の根支援の前に行政の支援の話を中心に。

 2011年調査の時の写真 タレーノーク村にて (撮影 志葉玲)

医療チームの全戸訪問

まずは、西洋医学的な支援についてです。タイでは10人程度の医療専門家チームをつくり、被災家族の全戸訪問しています。
ここのすごいことは、まず、すべての被災者の暮らしている所に行くということです。住んでいる所にまで各分野の専門家らによるチームが訪問するというのはなかなかないかと。心のケアだけでなく、保健衛生の観点からしても現場を見ることで、現場の様々な問題点が見えたはずです。
また西洋医学に基づきながらも宗教に対する対応も興味深い。
タイ南部にはイスラム教徒がたくさん住んでいるのですが、被災したイスラム教徒のコミュニティにはタイ赤十字社ではなく、イスラム教徒の医療に対応するタイ赤新月社のチームが対応しています。これは、住民たちの信仰を重視した対応の一つかと。

被災者に寄り添うための仕組みが不足する日本

日本でも避難所や集会所での検診とかはかなり頑張ってやっています。私に「人間の安全保障」について教えいくれた東北大学の上原先生も東日本大震災直後に宮城県庁に陣取り行政官の多くに犠牲を出したため行政崩壊した被災地の医療と保健を守っていたのですが。立法や行政の対応が追いつかない事があったそうで、現場と現場をコントロールをする医療者や保健関係者にかなりの負担がかかっていたと聞きました。
もちろん日本赤十字社も緊急医療のチームを交代で何度も被災地に送り込んでいたことも事実です。現場や現場を支えるチームは頑張ってました。ところが、日本赤十字社は制度的に義援金の窓口業務のみで義援金の分配などの扱いを決める事が出来ないにも関わらす、義援金が被災者になかなか届かないのは日本赤十字社が悪いのではないかと非難の対象とされていました。義援金に手を付けず現場で頑張っているにも関わらずです。
仮設住宅や復興住宅の集会所ですが、タイは日本より大きいです。住民全員が雨に当たらず集まる事が出来ます。それに対して日本の集会所は小さい。中に入れても詰め詰めです。それでは住民に寄り添う事が難しいのではないでしょうか。
もっと裏どりをする必要はありますが、自然災害のほかに原子力災害も同時に発生し、しかも、首都にも影響があった日本に対し、タイの方では首都が災害に巻き込まれていなかった事で冷静に対応できた面もあるかと思います。それは、その時の政権の力量以前に、災害対策に対する仕組みが作られていなかったことによって引き起こされていたと考えています。日本は被災者を管理することは得意ですが、被災者に寄り添う仕組みが弱いのではないでしょうか。

救援物資セット

タイは、毎年のように洪水が起きます、そこで内務省に防災減災局が設置されてます。(←復興庁よりこっちが必要かも)また、タイ赤十字も洪水による被害の経験があり。1家族に1袋を渡せば生きていくことに必要なものがすべて入っている救援物資セットを常備しています。
このタイの救援物資セットは東日本大震災直後にも救援物資として日本にも届いており岩手県宮古市に配布されました。その中には、懐中電灯と乾電池、ろうそくとライターというように、必要なものが組み合わされたものでした。毛布や服も入っていました。トムヤンクンラーメンも入っていて、津波の被害にあい、もう外国に行けないと思っていたのに、思いがけない外国の味に外国に行けた気分がした方もいたそうです。ただし、タイ仕様なのでタイ人しか使い方のわからないものや、タイ人の口には合うが日本人にはちょっと辛い食べ物も入ってました。

支援を受ける側の「主体性」=「オーナーシップ」の尊重

前述した東北大学の上原先生に教えてもらった「人間の安全保障」ですが、現在の国際的人道支援の理念となっていて、支援を受ける側の「主体性」=「オーナーシップ」の尊重が重視されています。
被災者の方に出向く医療チーム、被災者の信仰に基づくケア、被災者が受け取りやすい救援物資は、支援を受ける側の主体性を重視した事によって行われた事だと私は考えています。その取り組みはタイでも日本でも行われていますが。タイの方がシステムとして出来上がっているものが多いのではないかと感じています。

次の、住民に寄り添った支援(中編)では、心のケアについて書きます。

ここに書かれていることを、実際に現地に行ってなぜそうなったかを体験してもらいたいと思います。スタディツアーの申し込みはこちら。20日までになるべくお申し込みください。まずはお問い合わせを。

 

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