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洞窟に閉じ込められた13人から人道支援について読み解く

洞窟に閉じ込められた13人から人道支援について読み解く

ニュース等で知っていると思いますが。7月10日に、6月23日からタイ北部のチェンライの洞窟に閉じ込められていた12人のサッカー少年と25歳のコーチの全員が救出され17日ぶりに全員が外に出ました。

7月2日に洞窟内で発見された時、英語で受け答えをする少年を見て、8月3日から実施するスタディツアーのテーマと、この少年たちと救助活動などがいろいろ重なると思ったので書き記したいと思います。
なお、この記事を書いている時点では、関西空港からではまだ席が取れるので申し込み可能です。

さて、今回の件で注目されるポイントを列挙します。

  • 多数のボランティアや多数の国籍の人による救出活動
  • いろんな国の人とコミュニケーションを取れる人材を育てる教育
  • 西洋医学とは違う心のケア
  • 無国籍問題

これらは、全て今回のスタディツアーで訪問する地域でも起きていることです。
長くなるかと思いますが、最後まで読んでいただき。よろしければ、スタディツアーに参加して現地に行ってもらえればと思います。

多数のボランティアや多数の国籍の人による救出活動

大変なことがあると、ゆるく結束して、いろんなスペシャリストを拒まず受け入れて目的を達成します。今回はもろにそのパターンだと感じました。
歴史的にタイと仲の悪いミャンマー(ビルマ)からの救援隊を受け入れるなど、イギリス、アメリカ、中国、日本、オーストラリア、ベトナム、ラオスの救援隊を受け入れてます。
救出のためなら、国家、宗教、民族、性別は関係なくなる。人道支援の醍醐味。
最後はテスラのイーロンマスク氏まで現れた。タイでは、異教徒でも徳を積むことが良いとされていて、そういう人に徳を積ませることで、自分も徳を積むことが出来るという発想があって。いろんな支援を受け取る。
近隣の住民も救援隊の食事やマッサージを提供するなど、自分たちに出来る手助けをしてます。
これらのボランティアは1000人ぐらいいたそうです。
また、洞窟からくみ出した水によって、水田が水没した農家は、子どもたちが助かるならと気にもかけていないようでした。
遠隔地では、歌を歌える人は歌い、絵を描ける人は絵を描き、遠くから祈る人も。
多くの人が、自分で出来る事を提供するという事が起こりました。
とても上座仏教的かと。

この様子は、今回だけではなく、タイでは何度となく同様の事が起きています。
そのひとつが、2004年スマトラ島沖地震による大津波です。
ピピ島で津波に被災した日本人の方が、今回の洞窟の救出体制を見て、14年前に自分が助けてもらった時と同じような光景が報じられていると言ってました。普通、災難に遭ったところには、二度と行きたくないと思うけど。その後、津波に遭ったタイに何度も足を運ぶのは、この救出活動があったからだと言ってました。

8月のツナミクラフトのスタディツアーでは、2004年の津波被災地に行くことで当時の事から、その後も継続的に行われている支援活動を見る事が出来ます。

タイ南部でお世話になっているダイビングショップの関係者も救出活動に参加していたようです。

また、救出活動の裏で、プーケット沖で発生した40人以上が犠牲となった船の転覆事故において、海軍のエース級のレスキューダイバーが洞窟の方に行っていたため。プーケットを中心とする何十人ものボランティアダイバーが救出活動を行いました。
ダイバーたちは、命に係わる仕事をしているので、大変なことがあると協力して動きます。
2004年の津波の時、日本人の経営するダイビングショップが津波の知識があったので、会社など関係なく近くのダイビングボートと連絡を取り合って対策をしたため、ダイビング中の津波犠牲者はいませんでした。

無国籍問題

事件が発生した洞窟はタイとミャンマーとの国境に近く、かつてはゴールデントライアングルと呼ばれた地帯の一部です。この地域には、いろんな少数民族が住んでいたり。紛争のあった歴史から難民となって国境を超えて来た人がいたり。DVなど様々な事情で出生の証明が出来ない。など、様々な理由で国籍を持たない無国籍者がいます。タイ国内には、そういう無国籍の人が85万人暮らしていると言われています。

今回救出された、サッカーコーチと少年たちの一部に無国籍者がいました。
国籍がないとどうなるかというと、様々な国によるサービスが受けられません。医療、教育、福祉、運転免許などの資格・・・、そしてパスポートも発給できません。FIFAは子供たちが無事に洞窟から出られたらロシアW杯の決勝戦に招待すると発表しましたが。国籍がないのでパスポートは発給できません。また、身分を証明するものがないので、県外に行くにも一苦労です。例えば、イギリスのプレミアリーグのチームが彼らのためにタイの首都バンコクで試合をしようとしても、バンコクに行く事さえ困難です。国籍がないと、いくらサッカーが上手くてもワールドカップに出場できません。

無国籍がゆえに、就職できなかったり、最低賃金以下で働かされたりと、貧困から抜け出せなくなる事も。
無国籍の人が子供を作った場合、その子供も無国籍となります。
洞窟から手で来た無国籍者に対して国籍を与えようという動きが出ていますが。この子たちだけでなく、あらゆる無国籍者の問題の解決に動いてほしいものです。国際的に話題になった事件ですので、これをきっかけに無国籍者の問題解決に向かって欲しいです。

8月のスタディツアーでも、無国籍問題に関係する所を訪問します。
訪問地はタイ南部ですが、こちらもタイとミャンマーとの国境に近い場所にあります。その地域に住む海洋少数民族モーケンは、わりと最近まで無国籍でした。国籍取得の原因は、1990年代にミャンマーのアンダマン海沖で発見された天然ガスです。資源が発見されるまでは、国はモーケンに対しては関心が無かったのですが。資源が見つかると、その海域の実効支配が重要になり。その地域に住んでいる国籍を持たない少数民族に対して国籍を持たせたり、陸地への定住化を促進したりし始めました。そこで、いままで国籍を持っていなかったモーケンたちは、国籍取得と同時にミャンマー人とタイ人に分かれました。いままで、自由に会えた親戚にも会いにくくなったそうです。
良い事は、IDカードが発給され、教育、医療、福祉が受ける事が出来るようになったそうです。IDカードを作るためには名字が必要なので王室から名字もプレゼントされました。

スタディツアーの帰りに、バンコクにも寄るのですが、その時にはオプションでバンコクのクーロントイ・スラムに行きます。ここでも無国籍問題が発生していて。公的な支援を受けられない貧困な方がいます。外国人労働者のスラムへの流入と同様に深刻なスラムの問題のひとつです。

いろんな国の人とコミュニケーションを取れる人材を育てる教育

7月2日に洞窟内てにサッカーチームが発見されたとき。イギリス人ダイバーの英語での呼びかけに対して英語で答える少年の映像をニュース等で見たと思います。
発見時に英語で話した子は、ミャンマーの教会で宣教師から英語を学んだそうです。彼は英語の他、タイ語、ミャンマー語、中国語、そして少数民族のワ語の5つの言葉を話せるそうです。しかも、彼は無国籍だそうです。

なぜ、彼がこれだけ話せるかというのは、タイでは貧困対策などで、慈善団体などが、生活困難者、外国人、無国籍の子どもたちの教育をサポートしていて。その内容が充実しているからです。

今回のスタディツアーでは、オーストラリア・ニュージーランドなどに留学できるチャンスのある児童養護施設、タイにいてもミャンマーに戻っても他の国に行っても暮らして行けるスキルをつけるミャンマー人の子供たちが通う学校などを訪問します。

西洋医学とは違う心のケア

長期間の洞窟で過ごしたり、過酷な脱出に成功したのは、子どもたちの精神的なバランスを保つことが出来た面が大きいです。

閉じ込められていたコーチですが。10歳で親や兄弟を病気で亡くして孤児になり、20歳までお寺で暮らしていたそうです。コーチはお寺での暮らしで、瞑想などを覚えたと思われます。それが洞窟で長期間子どもたちを耐えさせることに成功しています。
西洋の精神科の医師はPTSDの危険性を指摘していますが、瞑想をしていたことで低く抑えられている可能性があります。
とくに興味深いのは、仏教徒、キリスト教徒も瞑想でなんとかなっているということ。南米ではある宗教の人に限ってコカインでPTSDが治療できる例があるそうです。いわゆる西洋医学的に治療ではなく、宗教など特殊な条件でおこる心のケアがあるらしい。今回は仏教徒、キリスト教徒でも効果が出ている可能性があり。しかも、違う民族のルーツを持つ子供でおきているので。厳密な宗教ではなく宗教をベースとした文化的背景でおきている可能性がある。

2004年スマトラ島沖地震の津波のあとも、東洋的な心のケアなどが行われています。(このあたりは、国際政治学者イザンベール真美氏による「災害・紛争等緊急時メンタルヘルス分野における有効な国際的人道支援の進展 : スマトラ島沖大地震・インド洋津波によるタイの被災とケアの事例」に書かれている。ツナミクラフトも調査に協力)
ツナミクラフトの扱う「さをり織り」も西洋医学とは違う心のケアとして成果をあげています。

8月のスタディツアーでは、いろんな心のケアの実践事例にも触れることができます。

 

今回の13人が洞窟に閉じ込められた事件は、2004年スマトラ島沖地震の大津波と類似するものがたくさんありました。
国籍のない人、人種・宗教・国境を超えた支援など、人道支援や人間の安全保障などいろんな事を再発見する出来事でした。
今後の展開も含めて、この13人に関する動向に注目したいと思います。

ツナミクラフトの活動は2006年FIFAワールドカップドイツ大会のアジア地区予選の取材をきっかけにライターの友人とタイに行った事から始まっています。サッカーとは何かの縁かも。

また、洞窟からの救出の情報の合間に、日本で起きている西日本豪雨の話題を挟み込み、日本の自然災害の事を祈ってくれたタイの方たちに感謝いたします。

スタディツアーの申し込みはマイチケットまで。申込書ダウンロードできます。

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