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天皇杯をきっかけに、映画を通してタイ南部や少数民族を考えてみた

天皇杯をきっかけに、映画を通してタイ南部や少数民族を考えてみた

2020年1月1日、サッカーの天皇杯で25年前阪神淡路大震災の日に初練習をする予定だったヴィッセル神戸が初優勝しました。おめでとうございます。

さて、この天皇杯の決勝戦は新しくできた国立競技場で開催されたのですが。
新しい競技場になって大きく変わったのは優勝杯を受け取る場所です。
いままでは、メインスタンドに貴賓席があって、その近くで優勝杯を受け取っていましたが、今年からグラウンド上で授賞式が行われる事になりました。

通常のリーグ戦とかならそれで良いとは思うのですが、天皇杯は古風なスタイルの方が伝統があって良いとは思います。時代の流れなんでしょうね。

そんなことで、サッカーの国内大会で優勝してメインスタンドのカップを受け取る映画を2本ほど紹介します。

1本目は、チャウシンチーの『少林サッカー』。キャプテン翼もびっくり、イナズマイレブンを実写にしたようなすさまじい決勝戦で、ピッチは破壊されまくっています。あの状態なら観客もけが人続出しているので表彰式どころではないはずですが、ちゃんとメインスタンドに登って優勝カップを受け取ります。

2本目は、タイ映画の『アフロサッカー』タイ本国の英語名は『SAGAI UNITED』です。
この作品もネタバレですがメインスタンドの国王杯を受け取ります。
作品自体は2004年ごろに制作されていて、タイのバレーボール映画『アタックナンバーハーフ』や2001年の『少林サッカー』の大ヒットの影響を受けての企画だと思われますが、当時のタイならではのネタが満載です。その中に興味深いネタがいくつかありました。

ストーリーは、八百長をしてギャングに追われたサッカー監督がふとしたきっかけで出会ったタイ南部の少数民族の少年サッカーチームの監督になり全国制覇をしてしまうというシンプルな話です。

このタイ南部の少数民族は、マレーシアでは「セノイ」と呼ばれているのですが、この映画では「サガイ」「サカイ」と呼ばれています。この「サガイ」というのは、マレー語で「奴隷」を意味する蔑称なので「セノイ」と呼ばれてますが。タイではお構いなしに「サガイ」と呼ばれています。マレーシアでは、もっといろんな呼び方があるようです。
セノイは、マレー半島に住む山岳少数民族で、マレーシアではオランアスリという先住民という扱いですが。タイのスリン島などで海洋少数民族のモーケンの説明看板などを見ると、海に住むモーケン、モクレンに近いけど山に住んでいるのがサガイという説明になっています。
たしかにモーケンのように髪の毛が縮れたりウェーブがかかっているのが似ているかもしれません。邦題で「アフロサッカー」とされたのは、オーストラロイドの特徴を持つサガイの髪の毛が縮れているからついたのだと思います。
なお、出演している少年たちには、実際のサガイはいないと思います。アメリカのケーブルテレビ会社HBOがスマトラ島沖地震をモデルにしたタイを舞台にしたテレビ映画『 津波 生き残った者たちの物語 : an HBO films mini-series event 』に 「アフロサッカー」 に出てくる子役が出てきます。

さてこの、サガイの少年たちがサッカーの全国大会に出ようと思った理由ですが。少数民族の中で謎の風土病が発生しており、その解決策が優勝カップを手に入れる事で、どうしても手に入れたかったからです。
この風土病にはモデルがあるようなんです。タイ南部のナーコンシータマラート県の ロンピブン村に 100年程前から「カイダム」(黒い熱病)と呼ばれる風土病 があったのです。おそらくこれがモデルです。
映画では病原菌かウイルスが原因でタイの保健省と思われる研究機関の研究者がワクチンを開発するのですが。 元ネタはヒ素中毒の公害です。これがわかったのが1987年、100年ほど前から近くの山で錫の採鉱・選鉱という鉱山の活動がおこなわれたことにより土壌と水をヒ素汚染し、慢性的にヒ素汚染に曝されていたそうです。 井戸水使用禁止となり、雨水利用や近隣から水道を引いて来たりして井戸水の使用を制限したそうですが、どうしても井戸水を使ってしまう人がいるそうです。
1980年代に錫の価格が暴落したので、錫の採掘が減り、新たな汚染は減っているとは思いますが、いままでに汚染された土壌や水はきれいになっていないと思われます。

サガイの少年たちが、メインスタジアムを登り、国王杯(優勝杯)を手にする想いはどんな感じだったのでしょうかね。タイにおける王様とは何かはこの映画のいろんなところに良く表れています。
タイではタイ国籍があればどんな民族でもタイ人という教育が行われていますが、この作品もその流れの中で作られているように感じました。
コメディ映画とはいえタイの政策が現れています。

映画中にパラドンという選手名が出てきますが、 パラドーン・スリチャパンというテニス選手です。最高順位は男子シングルスで世界ランキングで9位となりアジアの選手で初めてベスト10内に入った選手で、ウインブルドンでアガシを破って注目された選手です。ちなみに日本の錦織選手は最高ランキングは4位です。
錦織選手が出てくるまで、男子では松岡修造以外では、欧米やオーストラリアの選手ばかりが報じられていたので、日本ではなじみがない選手ですが、アジアのスポーツ界において重要な選手です。

「アフロサッカー」 は、コメディ映画ですが、その背景を調べてみるといろいろ面白いものがありました。 全てのコメディ映画がそうとは限りませんが、 コメディ映画は、その時の文化や、その地域の様々な問題がちりばめられていたりします。映画の背景を追いかけてみると、いろんなものが見えてきます。

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